嗅覚に殺される
つわりが来てから、嗅覚が通常の3倍ぐらい鋭くなった。
今なら、空港で麻薬の臭いを嗅ぎ分けられるのではないかと思う程に。
実際、期間限定の特殊能力が世の役に立つ事は無く、ただただ臭いに過剰反応し、吐き気を催すだけだった。
私のつわりはとことんベタだ。
それまで鬱を緩和する為にやっていた事が出来なくなったのも辛かった。
お香も、チャイも、ミントティーも、VAPE(ベイプ)も、全部受け付けなくなった。
つわりは、"臭い"も"匂い"も分け隔てなく拒絶する。
食生活も大いに偏った。
香辛料多め、味濃いめはもちろんの事、白米も食べられなくなった。
炭水化物が臭うのだ。
主食はアイスとフルーツ、口の中がずっとファンシーだった。
何よりキツかったのは、旦那のアイコス。
あの独特なアンモニア臭の不快感たるや。
家で吸うなと言ったのに、換気しながらこっそり吸いやがった際は、殺意が湧いた。
私がブチ切れると、旦那は焦ってリセッシュの黒をそこら中に吹きかけた。
アイコスとリセッシュの黒が混ざり合って、妊婦が考えうる限り最悪の臭いになった。